🔬 2011年、ついに頭蓋骨を部品ごとに調べた
疑問を決着させるため、2011~2012年に本格的な科学調査が行われた。
舞台はライデン大学、博物館、そしてパリのフランス美術館研究修復センターだった。
蛍光X線、X線回折、粒子線励起X線分析、顕微鏡観察、ガスクロマトグラフィー質量分析などが使われた。
研究者は、頭蓋骨、モザイク片、接着剤を別々に判定した。
「全体が本物か偽物か」と問うだけでは、巧妙な組み合わせを見落とすからである。
🟦 モザイクの97パーセントは、本物らしいターコイズだった
分析すると、モザイク片の約97パーセントはターコイズだった。
残りには貝、ヒスイ輝石、沸石の一種である輝沸石、石英が含まれていた。
顕微鏡でも、近代工具による製作痕は確認されなかった。
つまり、青い小片は近代のガラスやプラスチックではない。
古代の装飾品や埋葬から持ち出された、本物の先コロンブス期素材とみるのが妥当だった。
偽物のために、本物の文化財が材料として消費された可能性が浮かぶ。
↑額にある蛇のモチーフの目の部分の象嵌!( ・Д・)(Geurds and Broekhoven 2013, Fig.5から転載; Copyright C2RMF)
🐚 貝殻の土が、「別々に埋まっていた」と告げた
眼の周囲などに使われた貝片には、土中で生じたリン酸カルシウム系の付着物が残っていた。
長く埋まっていた証拠である。
ところが、付着物の量と場所は貝片ごとに揃っていなかった。
同じ物体の同じ面として埋葬されたなら、もっと似た状態になりやすい。
研究者は、貝片が別々の場所や時期に土中へあった可能性を指摘した。
本物の古代部品を寄せ集めた、という仮説に一歩近づいた。
🦷 歯は「トウモロコシを食べた高地の人」と語った
頭蓋骨は、死亡時35~49歳ほどの男性と推定された。
観察できる特徴は、アメリカ先住民系の祖先を示した。
歯の炭素・酸素・ストロンチウム同位体は、乾燥した内陸高地、火山性地質、トウモロコシ中心の食生活と整合した。
その組み合わせは、オアハカ盆地を含むメキシコ南西部で想定できる。
ただし、生前の民族名まで歯が教えるわけではない。
2021年には放射性炭素年代測定も試みられたが、信頼できる値は得られなかった。
頭蓋骨そのものの年代と出土地は、今なお完全には確定していない。
🟣 紫外線の下で、二種類の糊が光った
決定打は接着剤だった。
紫外線を当てると、広い範囲の赤い発光と、部分的な黄緑色の発光が見えた。
黄緑色の糊は、額、下顎、上唇付近の一部だけに重ねられていた。
これは1962年、ニューヨークの修復家ノーマン・ウィーナーが補修した場所と一致した。
分析すると、補修用の糊は松脂とナギモドキ属の樹脂を混ぜた近代材料だった。
では、残り99パーセントの「元の糊」は何だったのか。
🐛 シェラックを作る虫は、メキシコにいなかった
主接着剤はシェラックだった。
シェラックは、南アジアや東南アジアに生息するラックカイガラムシの分泌物から作られる。
メキシコで古くから赤い染料に使われたコチニールカイガラムシとは、名前が似ていても別の虫である。
ラックカイガラムシのシェラックは、征服以前のメキシコでは使えない。
しかも糊は、後世の小修理だけでなく、モザイクの99パーセントを支えていた。
古代の頭蓋骨と古代の石片が、近代に初めて一体化した可能性が最も高くなった。
↑接着剤部分の拡大!( ・Д・)(Geurds and Broekhoven 2013, Fig.6から転載; Copyright C2RMF)
➕ 本物+本物=本物、とは限らなかった
結論は、単純な「全部偽物」ではない。
骨はメソアメリカ先住民のものと考えられる。
モザイク片も、先コロンブス期の本物とみられる。
しかし両者の現在の組み合わせは、おそらく20世紀の創作だった。
研究者マルティン・ベルガーは、ごく小さな可能性として、崩れた古代作品を近代人が完全に貼り直した場合も排除しなかった。
それでも、形の違い、寄せ集めの部品、近代接着剤を総合すれば、「古代素材による近代の贋作」が最も合理的である。
🎬 「血と頭蓋骨の文明」という先入観も、鑑定を曇らせた
なぜ専門機関まで魅了されたのか。
ベルガーは、西洋社会がメソアメリカを「流血、骸骨、人身供犠の世界」として描いてきた歴史を問題にした。
映画『アポカリプト』のように、複雑な社会を暴力の印象へ縮めた作品もある。
頭蓋骨、宝石、蛇、供犠を一つに詰め込んだ品は、観客が期待する古代メキシコ像に合いすぎた。
物が「文化らしく見える」ため本物とされ、その物を見て人々が「文化らしさ」を学ぶ。
この循環へ贋作が入ると、偽物が教科書になってしまう。
🏷️ 贋作になった瞬間、価値はゼロになるのか?
科学調査で、古代の傑作という肩書は失われた。
しかし、頭蓋骨が無価値になったわけではない。
それは20世紀の古美術市場、盗掘、収集家の欲望、博物館の鑑定史を語る資料になった。
ベルガーらは表示案として、「後古典期、ミシュテカ/20世紀、メキシコ」という二重の年代と文化名を提案した。
一つの物体の中に、古代の人間、古代の職人、近代の組立者、博物館の誤認が同居している。
「何年前の物か」だけでは説明できない文化財なのである。
↑同じ部分にブラックライトを当てた状態の写真!( ・Д・)(Geurds and Broekhoven 2013, Fig.6から転載; Copyright C2RMF)
✈️ 2025年、頭蓋骨はメキシコへ帰った
2022年、メキシコ人芸術家ダニエル・アギラル・ルバルカバがこの頭蓋骨を知った。
彼はミシュテカ系の研究者らによるニチビ・ニュウ・サビ集団と協力し、返還運動を始めた。
メキシコ政府も2023年に返還を要請した。
オランダ政府は2024年12月、頭蓋骨の返還を決定した。
人骨は植民地コレクション一般の政策枠外だったが、倫理的理由から個別返還が認められた。
2025年5月、頭蓋骨は物理的にメキシコへ戻り、現在は国立人類学歴史研究所の管理下にある。
🏠 最後の行き先は、大博物館ではなく共同体の博物館かもしれない
返還を求めた人々は、頭蓋骨を単なる贋作とは呼ばない。
モザイクが近代の創作でも、骨は実在した一人の人間だからである。
オアハカ州ビジャ・デ・トゥトゥテペクでは、1020人が地域のユク・サア共同体博物館での展示を求めた。
まずオアハカ文化博物館で公開し、設備が整えば2027年4月に共同体へ移す計画が報じられている。
返還は「この作品を誰が作ったか」だけでなく、「この人を誰が祖先として迎えるか」という問いを開いた。
鑑定と返還は、別々の問題ではなかったのである。
📝 おわりに
ライデンのターコイズ頭蓋骨は、発掘で地中から現れた大発見ではない。
むしろ、博物館の展示ケースに長く置かれていた品を、素材、骨、歯、土、糊へ分解して読み直した発見だった。
青い石は古かった。
人骨も古代メソアメリカに由来するとみられた。
だが、両者を結んだシェラックは近代だった。
ほんの薄い接着剤の層が、1960年代から続いた壮大な物語を剥がしたのである。
そして皮肉にも、「本物のミシュテカ美術」という肩書を失った後で、この頭蓋骨は一人の人間として故郷へ近づいた。
本物か偽物かという問いは大切だ。
しかしその先には、誰の骨を、誰が、何のために掘り出し、売り、飾り、研究し、最後に迎え直すのかという、もっと重い問いが残っている。
本物の骨と、本物の石と、偽物の組み合わせ。
そのどれよりも確かなのは、頭蓋骨の持ち主が、最初から「材料」ではなく一人の人間だったということなのだ!( ・Д・)
何はともあれ・・・
真っ当な考古学者より贋作製作者の方がお金になるよね!( ・Д・)






























