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イントロダクション:問いと状況設定
Krieger の「The Typological Concept」は、考古学における 「type(型、タイプ)」という概念の意味を明確化し、その実務的・理論的機能を定式化しようとする論文である。
彼はまず、考古学的実践において「型」という語が日常的に広く使われている一方で、その厳密な定義や運用ルールが学界で一致していない点を問題視する。型の曖昧さは、分類結果の再現性・比較可能性・歴史的解釈の妥当性を損ないやすいからであり、ここに理論的・方法論的整理の必要があるとする。
1)「タイプ(type)」と「バリエーション(variation)」の区別
Krieger はまず用語的整理に着手する。彼は「type(型)」と「variation(変異)」を明確に区別する必要を強調する。要点は次のとおりである。
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「Type(典型)」は分析者が定めるまとまりではあるが、単なる記述上の便宜ではなく、できるだけ「実際の文化的実践(cultural practice)」を反映することが望ましい。つまり「型」は過去の人々が現実に作り、使ったひとまとまりの行為や様式の“化石”として理解されるべきである。
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「Variation(変異)」は、ある型の内部で観察される差異であり、時間的・空間的連続性や機能差などを反映する。Krieger は、どの程度の差異を「異なる型」と見なすかの判断基準を提示する必要性を主張する。
この区別は、型の設定が単なる記号的ラベルの付与で終わらないようにし、分類が歴史的・機能的説明につながることを意図している。
2)タイプの目的:分類そのものと歴史的解釈の橋渡し
Krieger にとってタイプ分類の目的は二重である。
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説明的目的(descriptive):資料群を秩序づけ、比較可能な単位に分割する(分析の便宜)。
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解釈的目的(interpretive/historical):分類されたタイプを用いて時空間的な分布やその変化から、文化伝播・交流・技術変遷といった歴史的メカニズムを推定する。
重要なのは、分類が後段の歴史的・行動的推論の土台になる点で、Krieger はタイプ設定がいかにして有効な帰結(たとえば年代的な指標、文化集団の識別)を生むかに強い関心を示している。
3)タイプを「文化的実践の単位」として捉える視角
Krieger の特徴的主張の一つは、タイプは「文化的実践の単位(unit of cultural practice)」であるべきだ、という点である。
彼は、単に形態学的特徴(器形・装飾など)の類似だけで型を決めるのではなく、その型がかつてどのような生産・使用行為や意味をもっていたか(=機能や社会的意味)を考慮すべきだと述べる。つまり、考古学的タイプは「行為の痕跡=化石化した習慣」を表象するものとして扱うべきである。
この視点は、単純な形態分類(形だけの分類)と 機能的・歴史的タイプ(functional/historical types) を峻別する議論へとつながる。Krieger は、機能的あるいは歴史的意味をもったタイプの方が、遺跡分布や時相分析において有用であると論じた。
4)タイプ設定の手続きと診断モード(diagnostic modes)
Krieger はさらに実務的な指針を提示する。タイプを決める際には 「診断モード(diagnostic modes)」 と呼べる、いくつかの特徴(modes)を選び、それらの組み合わせによってタイプを定義する方式を勧める。これには次の含意がある。
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複数の属性(形状、装飾、素材、技法、表面仕上げなど)を用いて型の診断基準を定める。
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診断モードはその研究目的に合わせて選ばれるべきで、時間的な系列を追うのか、機能差を明らかにするのかによって選択基準が異なる。
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診断モードの選択がタイプの歴史的妥当性(たとえば時系列に沿った単調な分布を示すかどうか)を左右するため、モード選定は透明に示す必要がある。
この「診断モード」概念は、後の「形式的型認識(formal typology)」や「診断的属性選択」の理論的基礎になっていく。
5)型と年代推定(seriation)との関係
Krieger は型の時空分布を用いた年代推定(seriation)についても言及する。特に歴史的タイプ(historical types)を用いると、型の出現頻度が時間軸上で連続的・単調的に変化することが期待され、それが年代推定の根拠となりうる。だが重要なのは、その単調性はタイプ定義と診断モードの選択に依存するという点である。誤った診断モードを選べば、仮に見かけ上の型があっても年代的整合性は崩れる可能性がある。
6)型概念の哲学的・方法論的含意と限界
Krieger はまた、タイプ概念の限界についても率直に論じる。型は「分析者による構築物(analytical construct)」である面をもつが、それが「まったく任意」となってはならない。つまり、
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タイプはデータに基づく客観的信頼性を持つべきで、選定方法は記述されて検証可能であること。
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型が文化的単位であるという主張をするならば、それを支持するエビデンス(分布の一貫性、関連機能の有無、技法の一貫性など)を示すべきである。
こうした自己批判的態度は、タイプの恣意性を減らし、分類を歴史的解釈へつなげるために不可欠だとKriegerは考えた。
7)実践上の例示(論文内での参照事例)
論文中では複数の地域例や遺物群が参照され、タイプ概念の運用—どの診断モードを選ぶか、どのようにタイプを定義するか—が具体的に議論される(例えばカリフォルニアやカリブ地域などの研究引用)。Krieger は経験的事例を用いて、どのような場合に機能的/歴史的タイプが有効に働くかを示している。
8)総括的主張
Krieger の結論は要約すれば次のようになる。
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「type」は考古学的説明にとって中心概念であり、それを曖昧に運用することは許されない。
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タイプは単なる記述的ラベルではなく、可能な限り「文化的実践の単位」として定義されるべきである。
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タイプの定義(診断モード選択)は研究目的に適合し、かつ透明で検証可能な手続きに基づくべきである。





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