腰が痛い!( ・Д・)
『Method and Theory in American Archaeology』の要約と解釈
はじめに
本書は、アメリカ考古学(特に前コロンブス期/先史時代アメリカ大陸)を対象に、「考古学は単なる発掘・記述の学問ではなく、理論と方法論を伴った人類学の一分野である」という主張を提示するものである。
著者のWilley と Phillips は、序論で次のように述べている:
“American archaeology is anthropology or it is nothing.”
この言葉は、考古資料をただ年代順・型別に整理するのではなく、人類文化における構造・過程・変化を明らかにすべきという視座を示している。
本書は大きく2部構成となっており、第一部「文化‐歴史的統合の運用的基盤(An Operational Basis for Culture-Historical Integration)」、第二部「歴史‐発達的解釈(Historical-Developmental Interpretation)」に分かれている。
第一部 文化‐歴史的統合の運用的基盤
ここでは、考古学の記述レベル(観察・記録・分類)から、より説明・比較可能な形へと整備するための「単位(unit)」「型(typology)」「時空分布(spatial-temporal ordering and contextual relationships)」などの概念が論じられている。
考古単位概念(Archaeological Unit Concepts)
Willey & Phillips は、考古学が扱うべき「単位(units)」として、以下の3次元を明確に整理している:
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時間(chronological dimension)
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空間(spatial dimension)
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物質/型(material or typological dimension)
彼らは、これらを統合して「文化‐歴史的統合(culture-historical integration)」を行うべきであり、単に“時代を追う”だけでなく、“形式・分布・機能・変化”を同時に捉えることが重要であると述べる。
彼らはただし、当時のアメリカ考古学が「観察・記述」には熟達しているが、「説明(how/why)」「一般化(regularities)」には十分でないと批判する。
序論より引用:
“…the archaeologist’s ultimate purpose is the discovery of regularities that are in a sense spaceless and timeless.”
この言葉が示すように、彼らは考古学を「単なる文化史」ではなく、「人間文化の法則を探る人類学的学問」であると位置づけた。
考古統合(Archaeological Integration)
次に彼らは、時空分布と文脈(context)を統合する作業―すなわち、遺物型・遺跡配置・技法・環境・交流ネットワークなど―を考古統合の中心課題とみなした。彼らは、
“culture-historical integration … is both the spatial and temporal scales and the content and relationships which they measure.”
以上のように述べ、ただ「〇〇期 → △△期」という単純な系列化ではなく、「その変化がどのような空間的・物質的・社会的関係のもとに起きたか」を問うべきだと指摘している。
つまり、この部では「型の定義・分類」「時空分布・類似性」など、タイプ論争で注目された“型・変異・分類”の基盤を、より大きな文脈(時空・文化)で位置づけている。
第二部 歴史‐発達的解釈
第二部では、アメリカ大陸先史文化を「Lithic → Archaic → Formative → Classic → Postclassic」という段階論的枠組みで整理し、各段階の特徴・時期・技術・社会変化を解説している。
この発展モデルは、当時の考古学におけるタイプ論・遺跡分布論・文化進化の議論を俯瞰的に示すものであり、本書がタイプ論争や定量化考古学・ニューアーケオロジー(Processual Archaeology)への橋渡しとなる所以である。
例えば、Lithic ステージ(石期)においては石器技術が主体とされ、Archaic ステージ(古期)では定住化・狩猟採集社会から農耕社会への移行が論じられる。Formative (形成期 / 先古典期)以降では、陶器・拡大集落・儀礼中心地・都市的要素などが出現し、Classic/Postclassic (古典期・後古典期)ではさらに社会組織・政治制度・交易網の複雑化が展開される。
著者らは、そのような段階論を通じて、過去文化を「どのように変化したか」「なぜ変化したか」を説明するヒントを提供しており、考古学における単なる編年・型分類から一歩先の理論化・一般化を促した。
タイプ論争との関係・意義
本書がタイプ論争の文脈で重要なのは、タイプ(型)の概念を以下のように位置づけている点である:
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「型=分類単位」から、「型+時空+文脈=文化変化を読み取る手段」へと分類観を拡張している。
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型分類・時空分布・文化段階モデルを統合することで、考古学を説明レベルへ導こうと試みた。
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また、「考古学は人類学である」という宣言を通じて、分類の方法論的枠組み(タイプ論争)を学際的・理論的に位置づけた。
この意味で、『Method and Theory』は、タイプ論争(Krieger/Spaulding/Ford)を受け継ぎながら、「次の段階=理論的・モデル的考古学(定量化・説明志向)」へと道を拓いた意義ある著作といえる。
方法論的特徴と影響
本書の特徴的な論点はいくつか挙げられる:
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分類・型・段階論の構造化
遺物・遺跡・文化を型や段階で整理し、時代・空間・物質文化を横串に通す構造を提示。 -
時空分布・文脈の重視
ただ形態を比較するのではなく、その出現・分布・変化を「なぜ・どのように」の視点で捉えるよう促した。 -
説明志向(processual interpretation)への準備
本書では「機能的・原因的な説明(why)」を扱う「プロセス的解釈(processual interpretation)」という用語を前倒しで用いており、後のニューアーケオロジーへと発展する理論基盤を整えている。 -
分類の方法論的反省
型の設定・許容変異・標本選定など、分類における方法論的課題を明示しており、タイプ論争での問題点(恣意性・比較可能性など)と重なる議論を含んでいる。 文化人類学との接続
序論において、「考古学は人類学である」という命題を掲げ、人類文化を理解するための手段として遺物を扱う姿勢を明確にした。これは考古学を文化分析の科学へ引き上げる意図を反映している。
制約・批判的視点
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本書が採用する段階論(Lithic→Archaic→Formative→Classic→Postclassic)は、後年の批判(多線進化・地域変異・交流体系の複雑性)により修正・否定される部分も多い。
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型・段階の分類は、時間・空間・文化の変化を必ずしも線形に捉えない現代的知見とは整合しない部分がある。
また、本書の多くの議論は「北米/中南米考古学(特にアメリカ新世界)」に限定されており、他地域への普遍化には注意を要する。
現代的意義
今日においても、『Method and Theory in American Archaeology』は考古学史・方法論史研究において必読の一冊であるとされている。デジタル技術・GIS・ネットワーク分析が進む現代でも、本書の「単位・型・時空・プロセス」という枠組みは参照可能な基盤である。例えば、GIS研究では本書が提示した「単位(unit)とは時間・空間・型の三次元をもつものである」という概念が引き合いに出されている。
・・・ということで彼らの宣言はとても重要だったけれど、今の研究者もなかなか実践できていないよね。まぁプロセス考古学的研究が劣勢だからってのもあるけれど( -д-)ノ
私はプロセス考古学者を自認しているので、とても大好きな本ですね。
これらの考古学単位に関する基礎データを用いて財の社会不均衡分布(構造)を分布式(経済学由来)で記述して、「なぜそうなるのか、なぜそう変わるのか」という『Why』や『How』の部分、つまり力学的な部分を進化式(生態学由来)で記述するのが物質文化マクロ生態学です。





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