なんかよくわからんががんばる!( ・Д・)
はじめに
この論文は、異文化接触・文化同化(acculturation)という心理社会学的なテーマを、「文化進化(cultural evolution)」の枠組みから再検討したものです。著者らは、少数者(マイノリティ)と多数者(マジョリティ)という集団間の文化的影響・変化プロセスを、社会的学習・伝達バイアス・群集‐集団効果という進化理論的メカニズムを用いてモデル化可能と考えています。
論文が掲載されたのは Personality and Social Psychology Review(2024年)であり、アクセル・メソウディ(Alex Mesoudi)らによる文化進化研究の流れを、心理学・社会学側に接続する意図があります。
理論的背景
文化同化(Acculturation)とその限界
まず著者らは、従来の文化同化研究(心理学・社会学領域)について、「同化とは少数集団が多数集団の文化を取り入れるプロセス」などの定型モデルが主流であったが、進展が停滞していると指摘します。特に、「マジョリティ集団側の文化変化(多数集団の変化)をほとんど扱ってこなかった」「伝達メカニズムを形式モデルとして明示していない」という限界があります。
そこで著者らは、文化進化理論の基本構成(変異・伝達・選択)および社会的学習バイアス(コンフォーミティ、プレステージバイアスなど)を動員して、「どのような条件で多数/少数の文化要素が共有・変容・保持されるか」をモデル化しようとしています。
文化進化的メカニズムの導入
具体的には、次のような伝達・選択バイアスを検討しています:
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コノミティバイアス(conformity bias)=多数派模倣傾向。
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アンチ-コノミティバイアス(anti-conformity bias)=少数派模倣傾向。
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プレステージバイアス(prestige bias)=高地位・有名人の文化模倣。
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ペイオフバイアス(payoff bias)=成功・報酬のある文化特性模倣。
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垂直伝達(vertical transmission)=親から子への文化継承。
これらのメカニズムが「少数集団/多数集団のメンバーがなぜ、どのように文化を取り入れ・維持し・変化させるか」という問いへの説明力を持つと著者らは論じます。さらに、これらが「個体レベルの学習戦略」から「集団レベルの文化的均衡(cultural evolutionary equilibria)」を生み、その均衡が長期的な文化多様性・文化変化に影響を及ぼすという枠組みを提示しています。
モデル化と分析枠組み
戦略‐構造‐均衡の三段階
論文では、モデル化の流れとして次のように整理されています:
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学習戦略の構成:個人や集団が取る文化対応戦略(例:自文化保持+他文化採用、他文化拒否、単独同化など)を定義。
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戦略が集団レベルに展開される構造:複数の個体がそれぞれの戦略を持ち、相互作用・模倣・伝達を通じて文化的特徴が集団に拡散。
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集団文化の長期的均衡(equilibria):戦略と構造の相互作用の結果として、文化特性の分布・多様性・変化速度が安定または変動の状態に落ち着く。
この三段構成によって、著者らは単なる記述的な文化同化モデルを越えて「数理モデル的枠組み」の提供を目指しています。
要因・変数の提示
モデル化にあたって考慮される主な変数・条件には以下があります:
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個人属性(年齢、社会的地位、移民経験など)
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集団属性(少数/多数の比率、社会的構造、文化的接触頻度)
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伝達条件(模倣傾向、学習バイアス、接触ネットワーク)
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制度・社会構造(教育制度、言語政策、居住空間構造)
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長期的パラメータ(文化的多様性維持、文化的累積変化)
著者らはこれら変数が相互に作用し、たとえば多数派‐少数派の比率が学習バイアスを変える、模倣確率が文化均衡の安定性に影響する、という仮説を提示しています。
主な発見・含意
少数者の影響力と多数者の変化
一つの重要な含意は、「少数集団メンバーが単に受け入れ側になるだけではない」という点です。著者らは、少数者がプレステージあるモデルになったり、革新文化を提供したりすることで、多数集団に対して影響力を持つ可能性を示しています。これを、「文化進化的均衡」の観点から説明します。
モデル化の視点から見た接触・同化戦略
また、異文化接触に関して「単に同化・融合される/されない」の二者択一ではなく、多様な戦略が存在し、それぞれがどのような条件下で選ばれるかを説明可能としています。例えば、「模倣バイアスが強く、接触頻度が高く、少数/多数の比率がある水準を超える場合には、少数者文化の採用が起こりやすい」などの仮説が立てられています。
長期的文化変化と累積的影響
モデル化の枠組みを通じて、個別接触/模倣プロセスが累積して「社会全体の文化構造」を変える動きへと繋がるという視点が提示されています。つまり、マクロでの文化拡散・接触効果を説明しうる「進化的ダイナミクス」が描かれています。
分野横断(心理学/文化進化/社会学)という性格上、数理モデルの提示・図示・仮説検証の枠組み提供に重点が置かれており、考古学的遺物データ/マクロ時空データへの直接適用例は少ないものの、「伝達・接触・変化プロセス」に対する理論的基盤として優れています。
あるけまや流コメント






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