
📰 はじめに
こういうニュースって、一見すると「古い靴が見つかりました」で終わりそうなんだけど、実はぜんぜんそんな単純な話じゃないんだよね。
今回の発見は、靴そのものの古さもすごいんだけど、それ以上に「植物繊維の技術」が思っていたよりずっと高度で、しかもずっと古かったことを示している。つまりこれは、先史時代の人びとの“生活技術の見直し”に直結するタイプの発見なんだ。
❓ どんな発見だったの?
舞台はスペイン南部グラナダ県アルブニョル近くの Cueva de los Murciélagos、いわゆる「コウモリの洞窟」。ここで見つかっていた植物繊維製の遺物を最新の放射性炭素年代測定で調べ直したところ、編まれたサンダル22点が約6200年前のものだと分かったんだ。これによって、これらはヨーロッパで見つかっている履物のなかで最古級、しかも草を編んだ履物としては決定的に古い資料になった。国内ではCNN Japan がこの点を分かりやすく伝えていて、海外でも EL PAÍS や Smithsonian などが大きく報じていた。
さらに面白いのは、同じ洞窟から出ていた籠類の一部が、サンダルよりもっと古い約9500年前にさかのぼることだね。研究チームはこの資料群全体を、木・葦・エスパルト草などの有機質資料76点として検討し、その結果、中石器時代の狩猟採集民による籠細工と、新石器時代の農耕民に結びつくサンダル類とが、この一つの洞窟資料群の中に共存していることを示した。つまり今回のニュースは「古いサンダル発見」でもあるけれど、同時に「南ヨーロッパの植物繊維技術史の更新」でもあるわけさ。

↑めちゃくちゃ残り良いな!( ・Д・)(「CNN News」の記事内画像より転載;credit: Martínez-Sevillaet al.,Sci. Adv)
🧺 草のサンダルって、そんなにすごいの?
すごいです( ・Д・)
考古学では、石や土器や金属は残りやすい。でも草や木や布は、普通は腐って消えてしまう。だから先史時代の技術を考えるとき、どうしても「残った硬いもの」中心で過去を見てしまいやすいんだよね。
ところが今回の洞窟は非常に乾燥していて、湿度がきわめて低く、有機物が奇跡的によく残った。そのおかげで、草を撚る、編む、束ねる、形を整える、といった“本来は見えない技術”が、そのまま考古学資料として残った。研究チームも、この洞窟が南ヨーロッパで知られる植物繊維資料のなかでも最古級かつ最良の保存状態をもつ集合だと位置づけている。
しかも、ただ雑に草を束ねただけではないんだ。材料にはエスパルト草が使われていて、これは現在でもスペインで籠やエスパドリーユに使われる丈夫な植物繊維として知られている。研究では、その加工のされ方や編み方の違いから、先史時代の人びとがかなり高いレベルで植物素材を扱っていたことが分かってきた。研究者が「先農耕社会に対する単純すぎる見方を見直させる」と語っているのも、この技術的複雑さゆえなんだね。
🪦 しかもこれ、ただの落とし物じゃないかもしれない
ここがまた興味深いところ。
この洞窟は19世紀の採掘で知られるようになったんだけど、その過程で部分的にミイラ化した人骨や、籠、木製道具、サンダルなどを伴う先史時代の埋葬空間が見つかっていた。研究では、19世紀に現地を調査したマヌエル・デ・ゴンゴラの記述も参照しつつ、これらのサンダルが埋葬に伴っていた可能性が高いと考えている。実際、サンダルの中には使用痕のあるものと、ほとんど未使用に見えるものの両方があり、埋葬用に特別に用意された履物が含まれていた可能性まで示唆されている。
つまりこれは「昔の靴」ではあるんだけど、同時に「死者に持たせたもの」かもしれないんだよね。
そうなると話は一気に広がる。履物は生活道具であると同時に、死者の装いであり、送りの品でもあったかもしれない。単なる技術資料ではなく、当時の死生観や装身のあり方にまで接続する資料になってくるわけだ。
↑最近作ったものと言われても疑わないレベル!( ・Д・)(「CNN News」の記事内画像より転載;credit: Martínez-Sevillaet al.,Sci. Adv)
⏳ 何がそんなに「更新」だったのか
この洞窟の資料自体は19世紀から知られていたんだけど、1970年代の初期測定では、これらは今回より約1000年ほど新しいと考えられていた。ところが最新の分析で年代が引き上がり、籠細工は約9500年前、サンダルは約6200年前という見通しが出た。これで、ヨーロッパ先史時代の植物利用技術は、従来イメージされていたよりはるかに古く、しかも洗練されていたことになる。
EL PAÍS は、このサンダルより前に知られていた先史時代の有名な履物として、アルメニアの約5500年前の靴や、アルプスのアイスマン・エッツィの約5300年前の履物を引きつつ、今回のスペイン資料がそれらより古いと紹介していた。要するに、「ヨーロッパ最古の靴」の話は、単なる地域ニュースではなく、ヨーロッパ全体の先史技術史の基準を書き換える話なんだ。
🏺 あるけまや的には、ここがいちばん面白い
あるけまや的にグッとくるのは、こういう発見が「文明」や「複雑さ」の見方を静かにずらしてくるところなんだよね。
農耕が始まる前の人びとというと、つい「簡素」「原始的」みたいなイメージで見られがち。でも今回の籠やサンダルを見ると、そのイメージはかなり危うい。植物繊維を選び、加工し、編み、用途に応じて作り分けるには、知識も経験も手業も必要だ。しかもそれが日常生活だけでなく、埋葬や社会的実践にも関わっていた可能性がある。
石器ばかり見ていると見えにくいけれど、実際の生活世界は、もっと“柔らかい技術”でできていたのかもしれない。今回の発見は、その失われやすい部分がたまたま奇跡的に残ったことで、先史社会の輪郭が一段立体的になった例だと思うのさ。
📝 おわりに
スペインの洞窟で見つかった草のサンダル。
でもその意味は、「古い靴が残っていました」だけじゃない。
それは、約6200年前の人びとがすでに植物繊維を高度に操り、履物を作り、場合によっては死者を装うためにも使っていたことを示す資料だった。しかも、その背後にはさらに古い約9500年前の籠細工まで控えている。
つまり今回のニュースは、「ヨーロッパ最古の靴」という王道の見出しでありつつ、ほんとうの中身は「先史時代の技術観そのものを更新する発見」なんだね。
こういうの、ほんと好きなんだよなあ。
歴史を変えるのって、王や戦争や巨大建築だけじゃない。
ときには、一足の草サンダルなんだよね( ・Д・)






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