
↑久々の「考古学ミステリー」!( ・Д・)
今回の考古学・歴史ニュースは
「南アフリカの洞窟から見つかったホモ・ナレディの歯を調べたら、少なくとも20人全員から男性特有のタンパク質が検出されず、約30万年前の『女性だけの死者の場所』だった可能性が浮かんだけれど、そもそも本当に埋葬地なのかも含めて、まだ大論争の途中だぞ!( ・Д・)」
ってお話です(*・ω・)ノ
📰 はじめに
その洞窟へ入るには、地上の光を置いていかなければならない。
狭い通路を這う。
岩壁を登る。
身体を横向きにしなければ通れない割れ目を抜ける。
そして、幅20センチメートルにも満たない場所がある垂直の裂け目を下りていく。
地下約30メートル。
そこに、現在「ディナレディ・チェンバー」と呼ばれる空間がある。
2013年、この洞窟の奥で大量の人類化石が発見された。
頭蓋骨。
顎。
歯。
肋骨。
手足の骨。
乳幼児から高齢個体まで、ほぼ全身にわたる骨が残されていた。
発見されたのは、現生人類ホモ・サピエンスではない。
小さな脳と原始的な肩や骨盤を持ちながら、人間に近い手首、足、長い脚を備えた、未知のヒト属――。
2015年、この人類はホモ・ナレディと命名された。
「ナレディ」とは、南アフリカで話されるソト語で「星」を意味する。
ライジング・スター――「昇る星」と呼ばれる洞窟の奥で見つかった、人類進化の新しい星だったのである。
そして2026年、この謎だらけの化石群に、さらに奇妙な事実が加わった。
洞窟から見つかった23本の歯を分析したところ、少なくとも20人について、男性を示すタンパク質が一つも検出されなかったのである。
成人も。
子どもも。
乳幼児も。
大きな身体の個体も。
小さな身体の個体も。
分析できた者は、すべて生物学的な女性だった可能性が高い。
では、男性たちはどこへ消えたのか。
この暗い洞窟は、女性だけを運び込んだ特別な死者の場所だったのだろうか。
それとも、私たちは30万年前の人類と性別を、根本から誤解しているのだろうか!( ・Д・)
🌍 南アフリカの「人類のゆりかご」
ライジング・スター洞窟は、南アフリカ最大の都市ヨハネスブルグから北西へ約40キロメートル離れた地域にある。
一帯は石灰岩質の洞窟が数多く形成された土地で、スタークフォンテイン、スワートクランス、クロムドライなど、多数の人類化石遺跡が集中している。
このため地域全体は「人類のゆりかご」と呼ばれ、ユネスコ世界遺産にも登録されている。
ただし、人類がこの場所だけで誕生したという意味ではない。
南アフリカ、東アフリカ、北アフリカを含む広大な地域で、異なる人類集団が分岐し、移動し、時には共存していた。
洞窟に骨が残りやすかったため、南アフリカではその複雑な進化史を特に詳しく見ることができるのである。
石灰岩地帯では、雨水が岩石を少しずつ溶かし、地下に空洞や通路を作る。
地上から動物や土砂が落ち込む場合もあり、洞窟は長い年月の中で天然の化石保存庫となる。
ところがライジング・スター洞窟の人骨は、一般的な洞窟化石とは少し事情が違っていた。
🧗 2人の洞窟探検家が見つけた、骨だらけの部屋
2013年、洞窟探検家のリック・ハンターとスティーヴン・タッカーは、ライジング・スター洞窟の奥を探索していた。
二人は「スーパーマンズ・クロール」と呼ばれる狭い通路を抜け、「ドラゴンズ・バック」と呼ばれる岩場を登り、その先にある細い縦穴へ入った。
縦穴を下りたタッカーは、洞窟の床に散らばる骨を発見した。
一見すると動物の骨に見える。
しかし撮影された映像を確認すると、そこには人類の下顎骨らしきものが写っていた。
知らせを受けた古人類学者リー・バーガーは、骨を安全に発掘できる研究者を募集した。
条件は考古学や古人類学の技術を持ち、洞窟探検ができ、極端に狭い場所を通過できるほど小柄であること。
約60人の応募者から選ばれたのは、6人の女性研究者だった。
彼女たちは「地下宇宙飛行士」と呼ばれ、地上の指揮所と映像をつなぎながら、狭い空間で発掘を続けた。
奇妙なことに、約30万年前の女性ばかりだったかもしれない化石群を、最初に本格発掘したのもまた、6人の女性だったのである。

↑この洞窟めちゃ深く、複雑!( ・Д・)(「UCL」の記事内画像より転載)
🦴 1500点を超える骨から、新しい人類が現れた
2013年から2014年の初期発掘では、1550点の人類化石が回収された。
その内訳は骨1413点と遊離した歯137点で、顎に残った歯を加えると、ほぼ全身の骨格要素が複数個体分そろっていた。
少なくとも15人が含まれ、幼児、子ども、若者、成人、高齢者まで、異なる年齢の個体が確認された。
アフリカで、一種類の絶滅人類についてこれほど大量の骨格がまとまって発見された例は極めて珍しい。
調査が別の部屋へ広がると、レセディ・チェンバーからも同じ人類の化石が発見された。
そこには頭蓋骨や顎、すべての歯、腕、脚、背骨、骨盤などを含む、比較的まとまった成人骨格もあった。
この個体は「ネオ」と呼ばれた。
さらに子どもの頭蓋骨「レティ」なども見つかり、ライジング・スター洞窟全体では、少なくとも二十数人分、約2000点に及ぶホモ・ナレディの化石が確認されるようになった。
🧠 小さな脳と、人間のような足
ホモ・ナレディの身体は、古い特徴と新しい特徴を不思議なほど混ぜ合わせていた。
頭蓋容量はおよそ460~610立方センチメートル。
現生人類の平均的な脳の半分以下で、チンパンジーやアウストラロピテクスに近い大きさである。
肩は高い位置にあり、胸郭上部や骨盤、大腿骨の一部には、木登りを行っていた古い人類に似た特徴が残っていた。
手指も強く湾曲し、枝などを握る能力があった可能性がある。
ところが手首と親指は、精密な物体操作に適したヒト属的な形をしていた。
脚は比較的長く、足は現生人類によく似ており、地上を二足で長距離歩く能力を持っていたと考えられる。
木に登れる肩と指。
道具を握れそうな手。
人間のように歩く足。
そして小さな脳。
ホモ・ナレディは、人類進化が「脳が大きくなり、手足も同時に現代化した」という一本道ではなかったことを示した。
⏳ 原始的な姿なのに、意外なほど新しかった
発見当初、研究者の中には、ホモ・ナレディを200万年以上前の人類と予想する者もいた。
小さな脳、原始的な肩、広がった骨盤などが、古いアウストラロピテクスや初期ヒト属を思わせたからである。
しかし2017年、歯、洞窟堆積物、鍾乳石などを複数の方法で年代測定した結果、化石は約23万6000~33万5000年前に位置付けられた。
現在は、おおむね24万~33万5000年前、あるいは簡略に「約30万年前」と説明されている。
これは驚くべき年代だった。
北アフリカでは、約30万年前に初期ホモ・サピエンスが出現していた。
つまりアフリカ大陸では、私たちに近い人類が現れ始めた時代に、チンパンジーほどの脳しか持たない別のヒト属が生き残っていたのである。
ただし、ホモ・ナレディと初期ホモ・サピエンスが実際に出会った証拠はない。
同じアフリカ、同じ広い年代に存在したというだけで、両者の交流、競争、交雑を示す資料はまだ確認されていない。
それでも「古い身体を持つ人類が先に消え、現代的な人類だけが後から現れた」という単純な進化図は、完全に崩れることになった。

↑洞窟の最奥に大量の人骨があるのが分かる!( ・Д・)(「SCI NEWS」の記事内画像より転載)
🕳️ なぜ骨は、洞窟の最深部に集まったのか
ディナレディ・チェンバーの奇妙さは、骨の多さだけではない。
大型動物の骨がほとんどなく、発見された大型脊椎動物化石は、ほぼホモ・ナレディだけだった。
肉食動物に噛まれた痕跡もほとんどなく、大量の水が骨を運び込んだことを示す地層も確認されなかった。
洞窟外から土砂と一緒に一気に流れ込んだようにも見えない。
しかも部屋は、地上から直接入れない奥深い位置にある。
現在の入口につながる狭い経路が、当時も主要な進入経路だった可能性が高いと考えられている。
一人が迷い込んで転落したのであれば、事故で説明できる。
しかし乳幼児から高齢者まで、何人もの個体が、異なる時期に同じ洞窟系へ入ったらしい。
ほかの動物がほとんどいないことも説明しにくい。
そこで発見チームは早い段階から、
仲間が死者を洞窟の奥へ運んだのではないか
という仮説を提示した。
⚰️ ホモ・ナレディは、死者を埋葬したのか
2023年、研究チームは洞窟の床に掘られたような穴と、その内部にまとまって残る骨を報告した。
一部は周囲の地層を切り込み、別の土で埋め戻されたように見えるという。
子どもの骨格を含む土塊をCT撮影したところ、歯、肋骨、脚、足などが比較的自然な位置関係を保っていた。
研究チームは、死者を洞窟へ運び、穴を掘り、身体を置き、土を戻した「意図的埋葬」だったと主張した。
主張が正しければ、現生人類やネアンデルタール人よりはるかに小さな脳を持つ人類が、死者を特別に扱っていたことになる。
しかし、この解釈は強い批判を受けた。
くぼみは人間が掘った穴ではなく、洞窟床に自然に形成された窪地かもしれない。
骨のまとまりも、身体を埋めた証拠としては不十分である。
堆積物の移動、天井からの落下物、動物、踏み付けなどによって、骨が徐々に移動した可能性もある。
洞窟壁面の線刻も報告されたが、それをホモ・ナレディが刻んだ年代証拠は確定していない。
査読者や外部研究者は、「可能性は興味深いが、埋葬と断定するには証拠が足りない」と指摘した。
その後、論文は追加分析と大幅な改稿を経たが、意図的埋葬説が研究者全体の合意になったわけではない。
今回の「全員女性かもしれない」という発見も、この論争の中へ加わった新しい証拠なのである。
🦷 骨ではなく、歯のタンパク質を調べた
約30万年前の南アフリカは、古代DNAの保存に厳しい環境である。
高温や湿気はDNAを細かく分解するため、ホモ・ナレディから利用可能なDNAは、これまで回収されていない。
そこで2026年の研究では、DNAではなく、歯のエナメル質に残るタンパク質が分析された。
歯のエナメル質は人体で最も硬い組織であり、内部のタンパク質断片を長期間保護する。
DNAが消えた後もタンパク質の一部が残るため、数十万年、場合によっては数百万年前の人類化石を調べられる。
研究チームは、歯の表面へ弱い酸を短時間作用させ、微量のタンパク質断片を取り出した。
化石を大きく削る従来法より損傷が少なく、貴重な人類化石にも適用しやすい方法である。
抽出した断片は質量分析装置へ入れ、含まれるアミノ酸配列を識別した。

↑実際の検出状況の一例、洞窟の最深部だと思うと普通の考古学的記録写真も事件味があるよね!( ・Д・)(「John Hawks」の記事内画像より転載)
🧬 男性を見分ける「アメロゲニンY」
歯のエナメル質を作る主要タンパク質の一つに、アメロゲニンがある。
アメロゲニンを作る遺伝子には、X染色体上のAMELXと、Y染色体上のAMELYがある。
一般的なXX個体では、AMELXに由来するタンパク質だけが作られる。
Y染色体を持つXY個体では、AMELXに加えて、わずかに構造の異なるAMELY由来のタンパク質も作られる。
したがって歯からAMELY特有の断片が検出されれば、その歯は生物学的な男性のものと判断できる。
AMELXだけが検出され、AMELYが見つからなければ、女性である可能性が高くなる。
この方法は、すでにネアンデルタール人、デニソワ人、ホモ・アンテセッサー、アウストラロピテクス、パラントロプスなどの性別判定に使われている。
300万年以上前の南アフリカ人類から、男性のAMELYが検出された例もある。
つまり、ホモ・ナレディより古い化石では検出できるのに、今回の資料だけが古すぎて男性マーカーを失った、という説明は簡単ではない。
👩 23本の歯、少なくとも20人、男性マーカーはゼロ
分析されたのは、23本のホモ・ナレディの歯である。
歯の位置、年齢、出土地点、形態などを比較すると、少なくとも20人の異なる個体を表していた。
内訳は成人と未成年者がほぼ半数ずつで、乳児、幼児、年長の子ども、青年、成人、高齢者まで含まれていた。
しかも一つの部屋だけではない。
ディナレディ・チェンバー。
レセディ・チェンバー。
ヒル・アンテチェンバー。
子どもの頭蓋骨が見つかったU.W.110地点。
ホモ・ナレディ化石が確認された洞窟系の複数地点から試料が選ばれた。
結果は、あまりに単純だった。
20人すべてでAMELXが確認された。
一方、男性を示すAMELYは、一つも検出されなかった。
ほかに2人分と考えられる歯でもAMELYは見つからなかったが、タンパク質量が少なく、性別を確実に判定できる20人からは外された。
論文の表現は、あくまで「20人から男性マーカーが検出されなかった」である。
それでも、分析できた全年齢、全地点の個体が女性だった可能性を示す、異例の結果だった。
⚠️ 「20体の完全な女性遺体」が見つかったわけではない
ここは、報道を読む上で非常に大切である。
洞窟の一部屋に、完全な女性の遺体が20体、整然と並んでいたわけではない。
発見されたのは、分離した骨や歯、比較的まとまった部分骨格などの集合である。
今回分析されたのも、23本の歯である。
それらを重複しないよう整理し、少なくとも20個体を表すと判断した。
また「女性」という言葉も、現代社会のジェンダーを判定したという意味ではない。
歯のタンパク質から推定されたのは、染色体に関係する生物学的性別である。
30万年前のホモ・ナレディが、男女をどのような社会的カテゴリーとして認識していたのかは分からない。
「女性専用墓地」という言葉は分かりやすいが、正確には、
分析された個体がすべて生物学的女性だった可能性のある化石集積
と呼ぶべき段階なのである。
🚫 ホモ・ナレディが「女性だけの種」だったわけではない
一部の記事では、この結果が「ホモ・ナレディは女性だけの種だった可能性」を示すかのように書かれている。
もちろん、そんなことはない。
有性生殖を行う霊長類の集団が、何十万年にもわたり女性だけで繁殖することはできない。
男性のホモ・ナレディは必ず存在したはずである。
今回の問題は、
なぜ発掘・分析された化石群の中に、男性が見つからないのか
である。
男性は別の洞窟や別の区画へ置かれたのか。
女性だけがライジング・スター洞窟へ運ばれたのか。
男性の遺体は地上や別の方法で処理されたのか。
あるいは、男性も含まれているのに、タンパク質分析で男性と見分けられないのか。
新研究は答えを示したのではなく、より大きな謎を作り出したのである。

↑なんだかこのミステリーの秘密を知ってそうだよね!( ・Д・)(「EL PAIS」の記事内画像より転載)
💀 「ネオ」は男性だと思われていた
これまでホモ・ナレディの性別は、主として骨の大きさや頑丈さから推定されていた。
一般に霊長類や人類では、平均的に男性の方が大きく、女性の方が小さい傾向がある。
そのため大型の頭蓋骨や骨格は男性、小型のものは女性と解釈されてきた。
レセディ・チェンバーから見つかった大型個体「ネオ」も、長く男性と呼ばれていた。
ところがタンパク質分析では、ネオからも男性マーカーが検出されなかった。
ディナレディ・チェンバーの大型個体も小型個体も、いずれも女性だった可能性が高い。
最大の個体と最小の個体が同じ性別なら、両者の大きさの違いは男女差ではなく、女性個体の年齢、栄養、遺伝、地域差などによるものだったことになる。
これはホモ・ナレディの身体研究全体へ影響する。
従来「男性的特徴」「女性的特徴」とされた骨格差を、再分類しなければならない。
平均身長や体重、男女の体格差、骨盤の性差、成長過程なども、女性だけの標本を男女混合と仮定して計算していた可能性がある。
研究者たちが以前から気付いていた「化石間の形態差が妙に小さい」という問題も、同じ性別だけだったなら説明しやすくなる。
🧒 なぜ男の子まで一人もいないのか
女性だけの墓域があったと仮定しても、子どもの存在は解釈を難しくする。
分析された約半数は未成年者で、乳幼児も含まれている。
成人女性だけを特別な場所へ葬ったのであれば、女性としての社会的役割、出産、祭祀、血縁集団などと結び付けて考えられるかもしれない。
しかし幼い子どもまで全員女性だった可能性がある。
出生直後の男児と女児を区別し、異なる場所へ運んでいたのだろうか。
母親と子どもを一緒にしたのであれば、男児が一人もいないのは不思議である。
あるいは母系集団の女性と、その娘だけが同じ場所へ納められたのか。
事故、病気、集団死ではなく、長期間にわたって女性だけが選ばれたのか。
現代の社会制度を安易に当てはめることはできないが、乳幼児の存在は、単純な「成人女性専用墓地」説では説明しきれない。
🧬 男性でも、AMELYを持たない可能性はある
研究チームは、全員女性という解釈以外の可能性も認めている。
現生人類では非常にまれに、Y染色体を持つ男性であっても、AMELY遺伝子の一部または全部が欠失している場合がある。
古代のネアンデルタール人男性にも、同様の例が報告されている。
もしホモ・ナレディの男性が、種全体あるいは特定集団でAMELYを持っていなかったなら、男性の歯も女性と同じくAMELXしか示さない。
その場合、洞窟には男性もいたのに、今回の方法では見分けられなかったことになる。
ただし研究者たちは、この説明を現段階では可能性の低いものと考えている。
20人全員で同じ異常が起きていたと仮定するより、実際にすべて女性だったと考える方が単純だからである。
また、大型骨格を含めても、女性ではあり得ないほど頑丈な個体は確認されていない。
それでもホモ・ナレディのY染色体配列を直接読めていない以上、AMELY欠失説を完全に排除することはできない。
「AMELYがない」と「Y染色体がない」は、同じ意味ではないのである。
🦴 洞窟へ入った者だけが、集団全体ではない
もう一つの可能性は、単純な標本の偏りである。
私たちが知っているホモ・ナレディは、彼らの人口全体ではない。
洞窟へ入った一部の個体が、偶然あるいは意図的な理由で保存されたにすぎない。
周辺の地上には、男性、女性、子どもを含む大勢のホモ・ナレディが暮らしていたはずである。
そのうち、特定の集団だけが洞窟へ入った。
あるいは、特定の事件に遭った集団だけが残った。
洞窟の別の未調査区画に男性がいる可能性もある。
ライジング・スター洞窟は巨大で、現在も全体が調べ尽くされたわけではない。
「既知の標本が女性らしい」という事実から、「洞窟内の全個体が女性」「埋葬された者は必ず女性」とまで広げるには、さらに多くの資料が必要である。
⚰️ 女性専用の墓地だったなら、何を意味するのか
もし三つの条件、
- タンパク質分析が正しく、全員が女性である
- 骨が自然現象ではなく意図的に運び込まれた
- 穴を掘って埋めたという埋葬説が正しい
このすべてが成立するなら、ライジング・スター洞窟は、人類史上でも極めて古い性別選択型の墓域だった可能性がある。
しかもそれを作ったのは、現生人類ではない。
脳の大きさが私たちの3分の1ほどしかない、別種のヒト属である。
女性の死者だけを選び、地上から離れた暗闇へ運ぶには、死者の性別を認識し、場所を記憶し、危険な経路を進み、同じ行為を世代を越えて繰り返す必要がある。
それは単に死体を片付けるだけでなく、女性、血縁、祖先、洞窟、死後の場所などを結び付けた社会的な規則が存在した可能性を示す。
ただし、ここには仮定が三段重なっている。
「全員女性らしい」という新しい結果だけで、女性墓地の存在まで証明されたわけではない。
🔥 暗闇の中へ、どうやって遺体を運んだのか
洞窟内は自然光が届かない。
現在の経路と大きく変わらないなら、ホモ・ナレディは完全な暗闇の中を進まなければならなかった。
自分一人で通るだけでも困難な通路へ、動かない遺体を運ぶことはさらに難しい。
身体を抱えたのか。
複数人で受け渡したのか。
遺体が硬直する前に運んだのか。
腐敗後に骨だけを運んだのか。
火や松明を使用したのか。
研究チームは洞窟内の煤、炭化物、炉のような痕跡を挙げ、火を利用した可能性を主張している。
しかし火の年代や、それをホモ・ナレディが使用したことは、埋葬説と同じく完全には確定していない。
洞窟へ意図的に入ったという仮説は魅力的だが、照明と運搬方法を示す直接的な証拠も、今後の大きな課題である。
🧠 大きな脳がなければ、葬送はできないのか
ホモ・ナレディ研究が大論争になる背景には、脳の大きさがある。
人間らしい高度な行動は、大きな脳を持つホモ・サピエンスやネアンデルタール人によって初めて可能になった――。
かつては、そのように考えられがちだった。
しかし道具の使用、火、協力、意思疎通、死者への反応などは、単純な脳容量だけで決まるものではない。
脳の内部構造、神経回路、社会集団の大きさ、学習方法、身体能力も関係する。
小さな脳を持つホモ・フローレシエンシスも石器を利用した。
現生のゾウ、イルカ、カラス、霊長類にも、死者へ近づき、触れ、見守るような行動がある。
だから、小脳の人類が死者を扱った可能性を、最初から否定することはできない。
一方で「小さな脳でも埋葬できたはずだ」という期待を先に置き、曖昧な地層を埋葬跡として読んでもいけない。
必要なのは、脳の大きさに対する先入観ではなく、骨、穴、地層、移動経路を一つずつ検証することである。
🔬 これから何を調べれば、答えへ近づけるのか
第一に、さらに多くの歯を分析する必要がある。
まだ試料に含まれていない骨格や歯から、AMELYが検出されるかもしれない。
一人でも確実な男性が見つかれば、「洞窟全体が女性だけ」という解釈は修正される。
一方、数十人を追加しても女性だけなら、意図的選択の可能性は強まる。
第二に、AMELYとは別の男性特有タンパク質や、Y染色体に関係する分子指標を開発する必要がある。
一種類のタンパク質だけに依存せず、複数の方法で性別を確認できれば、AMELY欠失説を検証できる。
第三に、洞窟外からホモ・ナレディを発見する必要がある。
地上の居住地や別の洞窟から男女混合の集団が見つかれば、ライジング・スターだけが女性に偏ることを証明できる。
逆に、ほかの場所でも男性マーカーが出なければ、ホモ・ナレディの遺伝的特徴そのものを考え直さなければならない。
第四に、埋葬説を独立して検証する必要がある。
地層が本当に掘り返されているか。
骨は遺体の分解過程と一致する位置にあるか。
自然の水流や落下で同じ配置が生じないか。
性別が分かっても、骨が洞窟へ来た理由まで自動的に分かるわけではない。
📚 新発見が、過去10年の研究を書き換える
ホモ・ナレディは、最初から研究者の予想を裏切り続けてきた。
原始的な姿だから、非常に古い人類だと思われた。
しかし約30万年前だった。
大きな骨格は男性だと思われた。
しかし女性だった可能性が高くなった。
洞窟の骨は事故や自然現象で集まったと思われた。
ところが意図的な運搬や埋葬の可能性が提示された。
小さな脳では複雑な死者儀礼は難しいと思われた。
しかし女性だけを選別した可能性まで現れた。
もちろん、後半の主張はまだ確定していない。
それでも今回の研究は、ホモ・ナレディについて分かったことを一つ増やしただけではない。
これまで男性と女性の両方を含むと仮定して行われた、身体サイズ、性差、成長、集団構成、埋葬行動の研究を、最初から見直す必要を生じさせたのである。
🌑 洞窟の闇に、男性は一人もいなかったのか
約30万年前。
南アフリカの地上では、ホモ・ナレディたちが歩いていた。
人間に近い足で長い距離を移動し、湾曲した指で木や岩をつかみ、小さな脳で仲間と暮らしていた。
その集団には、男性も女性もいた。
子どもが生まれ、成長し、老いて死んだ。
けれども、なぜかライジング・スター洞窟から分析された死者には、男性がいない。
女性の身体だけが、地下の闇へ運ばれたのだろうか。
洞窟は母、娘、姉妹を同じ場所へ戻す、祖先の空間だったのか。
それとも男性もそこにいるのに、30万年の時間が、彼らの分子的な痕跡だけを消してしまったのか。
そもそも彼らは死者として運ばれたのではなく、私たちがまだ理解していない自然現象によって集まったのか。
現在分かっているのは、23本の歯が、少なくとも20人を表していること。
そこから男性特有のAMELYタンパク質が、一つも確認されなかったこと。
そして、その結果が洞窟の謎を解いたのではなく、さらに深くしたことだけである。
「30万年前の女性専用墓地」という物語は、確かに魅力的だ。
しかし考古学と古人類学で最も大切なのは、魅力的な物語を早く完成させることではない。
歯の表面から採取した、ごく微量のタンパク質。
洞窟床を横切る、わずかな地層の違い。
骨が向いている方向。
乳幼児と成人の組み合わせ。
男性マーカーが存在しないという、静かな空白。
そうした地味な証拠を積み重ね、何が確実で、何が可能性にすぎないのかを分けることである。
ライジング・スター洞窟の闇には、まだ大量の骨と、調べられていない通路が残っている。
女性だけだったのか。
本当に埋葬したのか。
男性はどこにいるのか。
ホモ・ナレディは、人類進化の「星」という名の通り、発見から10年以上を経ても、暗闇の中から新しい問いを投げかけ続けているのだ!( ・Д・)
なにはともあれ……
ミステリー少し好きって思ったけど、考古学って大体ミステリーみたいなもんか!( ・Д・)





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