20XXねん 3がつ 20にち(かよーび、曇り)

出張が決まった。ちゃんとブログ更新できるか心配だ。

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↑月刊ムーPlusの記事の扉絵より

【目次】
  1. はじめに
  2. マヤ文明がゾンビによって滅ぼされた説
  3. ゾンビ説の検討
  4. おわりに
1.はじめに
「マヤ文明がゾンビによって滅ぼされた!?」は、2018年2月18日に月刊ムーPlusにて紹介された記事である(原文は上記リンクを参照)。

本記事では、このゾンビ説の紹介を行った上で、提示された根拠等について個別に検討していく。内容が批判的検討になることをご了承願いたい。


2.マヤ文明がゾンビによって滅ぼされた説
以下は、原文を引用、ないし参考にしつつ、論理構成を明らかにして記述したものである。

①ゾンビは実在する
「ゾンビ・アポカリプス」は映画等で見られるように、ゾンビによって現代文明が滅ぼされてしまうというシナリオである。映画だけの話だと思われていたが、現在は各分野の専門家を巻き込みながらひとつの認識を端的に示すキーワードになっている。つまりゾンビは存在するというのである。

②古代におけるゾンビの事例は既に発見されている
有史以前から人間は、死せる者の復活と復ふく讐しゅうを恐れていた。ギリシア文明等の遺跡からも「ゾンビ・アポカリプス」を示す遺物が見つかっている。中でも特筆すべきはマヤ文明である。

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↑人肉を食する「アステカ」の壁画(原文頁より)

③マヤ文明がゾンビによって滅んだ根拠

西暦250年から900年頃に最盛期を迎えたマヤ文明は、世界史上稀まれに見る人口密集型文明で、社会的動力に満ちていた。しかしマヤ文明は突如として人口が急激に減少し姿を消すことになってしまった。このマヤ文明崩壊の謎は、考古学最大のミステリーのひとつとされている。


一般的には急激な人口減少の理由は大干ばつと言われているが、実はマヤの都市から発掘される遺骸や遺骨に、共通する奇妙な特徴が見られる。それは数多く残された咬かみ傷と思われる痕跡である。


また関節部分に、無理やり引きちぎられたような痕跡も目立つ。こうした特徴のある遺骸が、あちこちの遺跡から掘りだされるのだ。しかも、墓所ではないところに多くの人骨が集められ、埋められていることが多い。


マヤほどの文明が、死者をその場でまとめて埋葬したとは考えにくい。おそらく、そうせざるを得ない「理由」があったはずである。また、大規模な村がまるごとひとつ、数日で全滅してしまった証拠も見つかっている。干ばつで食糧の備蓄が徐々に減っていったのではない。しかもそこには、「共喰い」を連想させる凄せい惨さんな場面の証拠や、子供が親を食べたことを思わせる痕跡さえ見つけられるのだ。


④「代替考古学論」の紹介と専門的裏付け
オルターナティブ・アーケオロジーという研究分野がある。主流派科学の枠組みから離れたところで大胆な仮説を展開していく「代替考古学論」だ。この論でよくいわれるのが、マヤ文明崩壊の理由は「ゾンビ病」の蔓延だったという仮説である。

この仮説に特化してマヤ文明崩壊の謎に迫ろうとする「ゾンビ・リサーチ・ソサイエティ(ZRS)」というグループがある。その中核メンバーであるユージーン・フレデリックによれば、古代マヤ人が死体をその場に埋めざるを得なかった理由は、ウイルスに感染した人たちがそれ以上の悪影響を与えないようにするためだというのだ。

⑤その他の考古学分野からの裏付け
スペイン国立調査委員会所属の考古学者、ファン・ホセ・イバニェス博士は、シリアの石器時代の遺跡で発掘調査を行い、頭蓋骨が完全に粉砕され、胴体と切り離された遺骸を発見した。しかも埋葬後一定の時間が経過してから頭蓋骨を砕き、首と胴体を切り離した痕跡が認められる。


この発見に対する解釈として、「生ける者の世界に対する脅威は、生ける者たち自身が排除しなければならない。そのための手段として選ばれたのが、だれの目にも明らかな、一番わかりやすいアイデンティティーである顔を奪うことだったのだろう。頭を切り落とすことで、生者の世界と死者の世界の境界線を明確に示したのだ。頭を頭蓋骨ごと潰つぶし、境界線を越えられないようにした例もある」と述べている。


また「ヒストリック・ミステリーズ・ドット・コム」というウェブサイトを運営管理するキンバリー・リンによれば、「墓から甦る死者という概念は、何千年も前から存在しつづけている。世界中の文明にアンデッドに関する迷信や伝説が残っており、そういう概念が今日でも受け容れられていることには何の疑いもない」のだそうだ。


3.ゾンビ説の検討
では、順を追ってこのゾンビ説を検討していこう。

①ゾンビは存在する?
ムーの記事では、ゾンビは「映画で見られる」⇒「専門家が扱っている」⇒「だから存在する」という論理展開である。三段論法のような疑似論理であり、結論に飛躍がある。

特に根拠としているのは「専門家が扱っている」ことであり、実際に各分野で有識者がどのようにゾンビを扱っているかは記載されていない。

各専門家がゾンビという言葉を用いたとしても、「ゾンビ会社」や「ゾンビプログラム」といった用語に見られるように比喩として用いており、ゾンビそのものが存在すると結論付けている科学者はいないであろう。

医療関係でも災害対策の一環として、ウィルスの蔓延に関するシミュレーションを行う際にもゾンビという言葉は見られるが、あくまで「もしゾンビウィルス存在したら」という仮定の下であるし、それほど強力なウィルスに備える目的が半分、注目を集める目的が半分であり、やはりゾンビの存在を肯定してはいないのが通常である。

②古代におけるゾンビの事例は既に発見されている?

実際、有史以前から人間は、死せる者の復活と復ふく讐しゅうを恐れていた。石器時代のシリア、ルネッサンス期のイタリア、ギリシア文明の遺跡からも、ゾンビ・アポカリプスを示し唆さするさまざまな遺物が見つかっている。中でも特筆すべきは、マヤ文明だろう(原文ママ)。

 先に述べたように、現在の研究によってゾンビの存在を肯定し、次には突如として有史以前からゾンビの存在はあったことになっているような記述である。特別根拠は示されていない。

③マヤ文明がゾンビによって滅んだ根拠は?
まずは図版の引用であるが、アステカと明記されている。アステカ文明とマヤ文明は異なる言語集団に基づく文化であり、時代も異なる。この図版を引用するのは不適切である。またこの図像は人身供犠の一端を示していると解釈されている。人肉を食する各人物も生者として表現されており、死体として描かれてはおらず、ゾンビを示してはいないだろう。

 マヤの都市から発掘される遺骸や遺骨に、共通する奇妙な特徴が見られるのだ。

それは、数多く残された咬かみ傷と思われる痕跡である。あるいは関節部分に、無理やり引きちぎられたような痕跡も目立つ。こうした特徴のある遺骸が、あちこちの遺跡から掘りだされるのだ。しかも、墓所ではないところに多くの人骨が集められ、埋められていることが多い。(中略)

 また、大規模な村がまるごとひとつ、数日で全滅してしまった証拠も見つかっている。干ばつで食糧の備蓄が徐々に減っていったのではない。しかもそこには、「共喰い」を連想させる凄せい惨さんな場面の証拠や、子供が親を食べたことを思わせる痕跡さえ見つけられるのだ(原文ママ)。

まず1点目に、私は形質人類学は専門ではないが、それでもマヤ考古学の専門として、噛痕や千切られた痕のある人骨が多数出土したという事例を知らない。また共食いや子供が親を食べたと思わせる痕跡が発見されたという事例も知らない。少なくともこのような事例があちこちの遺跡から検出されるなどということはあり得ない。

2点目に、古代マヤの葬制に関して、墓域は存在しない。住居基壇に埋葬し、住居を一回り大きく更新することで、床下の祖先と共に暮らすという葬制を取る。そのため「墓所でないところに」という表現が不適切である。もちろん住居床下が古代マヤにおける「墓所」と呼ぶなら間違いではないが、通常そのような表現は用いない。

仮にこの文章、つまり「墓所ではないところに多くの人骨が集められ、埋められていることが多い。」を認めるとするならば、これは古代マヤの話ではなく、近現代史の内容であろう。1930年代から90年代後半までグアテマラでは内戦状態であり、現代マヤ人を中心として推定で20万人に及ぶ人々が虐殺された。

この虐殺された遺体は墓所(教会墓地)ではなく、廃棄されるかの如くまとめて埋められたということが近年分かってきた。この近現代における虐殺の事実を明らかにし、遺体を遺族に返還することを目的とした考古学調査も行われている。原文の文章は恐らくはこのことを指しており、時間的も歴史的にも無関係の内容を根拠に用いていると考えられる。

④「代替考古学論」の紹介と専門的裏付け?

 オルターナティブ・アーケオロジーという研究分野がある。主流派科学の枠組みから離れたところで大胆な仮説を展開していく「代替考古学論」だ。この論でよくいわれるのが、マヤ文明崩壊の理由は「ゾンビ病」の蔓まん延だったという仮説である。

 ゾンビ病――正確にいえば、ゾンビ・ウイルスということになるだろうか――の蔓延。主流派科学の中ではなかなか出にくい発想であることは間違いない(原文ママ)。

「主流派科学の枠組みから離れたところで・・・」という表現は、このゾンビ仮説を展開する「代替考古学論」が、「主流派ではないが科学」というように述べているように感じる。

マヤ学会において、未だ定説とはなっていないテーマで、議論が分かれる場合があり、その内一方が現在は主流である、有力であるといった状態はあり得る。しかしもし彼らの業績が真に科学なのであれば、学会で発表して我々「主流派科学の連中」を納得させればいい話だと思う。

ちなみに国内外のマヤ学に関する学会誌等において、考古学やその他の分野を含めてゾンビに関する論文はこれまで一度も見たことがない。もし私が不勉強なだけで存在するなら紹介して欲しい(但し一般紙や査読なし論文は認めないが、読む分には面白そうなのでそれでもやはり紹介して欲しい。比喩表現として用いている場合は不可である)。

 こうした可能性に特化して、マヤ文明崩壊の謎に迫ろうとする「ゾンビ・リサーチ・ソサイエティ(ZRS)」というグループがある。その中核メンバーであるユージーン・フレデリックは、次のように語っている(原文ママ)。

このグループが実際にどうのような組織なのか不明である。「組織名称と人物名を具体的に出す」とあたかも有識者が言及しているような「如何にも感」が出るだけではないだろうか。

⑤その他の考古学分野からの裏付け

 博士はシリアの石器時代の遺跡で発掘調査を行い、奇妙な状態の遺骸を大量に発見した。頭蓋骨が完全に粉砕され、胴体と切り離された遺骸である。しかも、埋葬後一定の時間が経過してから頭蓋骨を砕き、首と胴体を切り離した痕跡が認められる。

そこでスタッツ博士は、次のような解釈を提示した。

 「生ける者の世界に対する脅威は、生ける者たち自身が排除しなければならない。そのための手段として選ばれたのが、だれの目にも明らかな、一番わかりやすいアイデンティティーである顔を奪うことだったのだろう。

 頭を切り落とすことで、生者の世界と死者の世界の境界線を明確に示したのだ。頭を頭蓋骨ごと潰つぶし、境界線を越えられないようにした例もある」(原文ママ)

ここではスタッツ博士とイバニェス博士の解釈が引用されている。引用元が示されていないため、各原文に当たることができなかったが、恐らく引用の仕方が間違っているのではなかろうか。

上記引用文はイバニェス博士の解釈であるが、これはシリアの石器時代における葬制と再葬の事例について述べている。

アニミズム等の初期の信仰にも、説明原理としての性格が認められ、生と死の区別は古代から現在に至るまで重要な関心ごとである。死そのものや死者に対する恐怖を取り除く他に様々な目的で、一度埋葬した遺体を「再び埋葬する(再葬)」という行為がしばしば行われることが確認されている。

現代日本では火葬のため、あまり馴染みが薄い。イメージとしては、火葬後に遺骨を自宅で(一時的に)保管し、四十九日の法要後に納骨の儀を行うという行為であり、保管場所を変えるという意味では現代日本における再葬の一形態と言えるかも知れない。

ちなみに古代マヤでは再葬の習慣があり、再葬の際に、場所を変更する、副葬品を追加する、遺骨の一部を取り出す、朱をかける等といった様々な儀礼的な行為が加えられた例が分かっている。

このような葬送儀礼の過程において、遺骨の一部を故意に取り出したり、破壊する行為は、儀礼的行為と解釈されており、ゾンビ対策とは考えられていない。そもそもゾンビ対策なら、最初に埋める前に頭部の切断や破壊が必要であろう。

つまりイバニェス氏の解釈の引用文は特定の人類の葬制や死生観、宗教観について言及しているのであって、人類がかつてゾンビと戦ったことには触れていないだろう。

 『ザ・ゾンビ・サバイバル・ガイド』(2003年)、および『ザ・ゾンビ・サバイバル・ガイド:レコーデッド・アタックス』(2009年)の著者マックス・ブルックスは、考古学関連の専門誌のインタビューに対し、次のように語っている。

 「ゾンビが実在した証拠を求める考古学者が捜すべきものは、頭をはねられた死体、あるいは脳みそが取り除かれた形跡がある頭蓋骨である。リビング・デッドを止めるには、このふたつしかないからだ」(原文ママ)

この引用に関しては、1点目に、そもそもゾンビが実在した証拠を求める考古学者がいるのか?ということである。私はいないと思う。いたとしても自称考古学者であろう。

もちろん古代においてゾンビが比喩的に使われた可能性はある。人類学者がハイチ島で観察したように、フラフラと歩く知的障害者をゾンビと見間違える事例のように、古代にも何かしらの勘違いは起こり得る。感染症のような死を振り撒く死にかけた人間がゾンビに見えたかも知れない(そもそもゾンビという概念が古代にはないであろうが)。しかしそのような個人的な現象は考古記録として残らないのが通常である。

仮に、上記引用のように、頭をはねられた死体あるいは脳みそが取り除かれた痕跡のある頭蓋骨が出土したとして(実際多数の例がある)、どのようにゾンビと結びつけることが可能だろうか。何故ゾンビにこだわるのか、何故他のより普遍的な可能性を無視するのか不明である。

つまりあくまでゾンビ説ありきで、ゾンビ説を支持するための都合の良い根拠を、世界中のありとあらゆる時間軸から集めてきたに他ならない。例えば、中世においてギロチンで首を刎ねられた遺体もゾンビだったからとでも言うのであろうか。


4.おわりに
さて、これまでの記事とは異なり、上記文章はですます調ではなく、である調で書きました。批判的文章となるのでしっかりと書きたいなと思ったからです。

実際書いてみて感じたのは、世の中、ツッコミどころ満載の記事は多々あれど、批判的な文章を書くというのはあまり気持ちの良いものではないですね。

そして、オカルト的な内容は、考古学が重要視する時間的・空間的枠組みを無視して、様々な話に飛ぶので全部を専門的に批判することは困難だなと感じました。

今後はいつも通り、考古学・歴史・マヤ文明に関係する記事の紹介に留めて、批判的な文章は書かない方向でいきたいなと思います。書くとしても専門的に扱える範囲の場合に限定しようと思います。

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